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児童売春に児童ポルノ、蔓延する性被害から子ども達を守る「サイバー防犯ボランティア」の挑戦

トピックス 2022.03.04 児童売春に児童ポルノ、蔓延する性被害から子ども達を守る「サイバー防犯ボランティア」の挑戦

セキュリティ通信では、Web・IT業界をリードするスペシャリストの方々にインタビューを行っています。

3回目となる今回は、サイバー犯罪から社会を守るため「AIを用いた防犯システム」の最前線で活動を続ける文教大学情報学部の池辺正典教授からお話をお伺いしました。

近年、スマートフォンをはじめとする携帯機器が子供たちの間で急速に普及しています。

令和2年度青少年のインターネット利用環境実態調査によれば、小中学生が90%以上、高校生は98.9%がインターネットを利用していると回答しました。

その一方で、子供たちを狙う悪質なサイバー犯罪が蔓延し、年間約2,000人のSNSに起因する事犯の被害児童数が報告されています。

このような社会的状況を鑑み、池辺教授は、子供たちが利用するインターネット空間を浄化し犯罪から守るために警察や教育機関と連携した数々のプロジェクトを推進してきました。

池辺教授のインタビューは全4回にわたってお送りします。

第3回目となる今回は、全国で活躍するサイバー防犯ボランティアの活動状況やコロナ禍における児童に対する性犯罪の変化、万が一子どもが事件に巻き込まれた場合の対処方法についてご教授いただきました。

「ゲームのリスクも面白さも知り尽くした」大学生の言葉だから子どもたちの心に響く。

サイバー防犯ボランティアを始めた経緯について

セキュリティ通信:
池辺先生のゼミナールでは、子どもたちに向けたサイバー防犯教室などを開催しているとお伺いしています。サイバー防犯ボランティアはどのような経緯で始めたのですか?

池辺教授:
2013年に、神奈川県警本部と文教大学による「サイバー犯罪の防止に関わる連携協力に関する協定」の締結がベースになっています。

協定を締結した背景には、文教大学が教員養成の歴史ある大学であり、その関係から県内の学校におけるネットトラブル対応を行っていました。そして、違法有害情報に触れる機会の増加とともに、補助システムの開発やサイバー防犯ボランティアという活動に繋がっています。

セキュリティ通信:
大学の特性や時代の流れが背景にあるのですね。「サイバー防犯ボランティア」の具体的な活動内容や学生の反応について教えてください。

池辺教授:
サイバーボランティアの活動は、警察庁でもマニュアルが公開されていますが「教育活動」「サイバー空間の浄化活動」「広報啓発活動」の3種類になります。

教育活動では「小中学校に向けたサイバー教室の実施」、サイバー空間の浄化活動では「SNS等における違法有害情報の発見と対応」、広報啓発活動では「警察イベントにおけるネットトラブル対応コンテンツの紹介等」を行ってきました。

「サイバー防犯ボランティア」の具体的な活動内容や学生の反応について

ゼミナールの学生にとって主要な活動のひとつである「サイバー防犯教室」では、児童や保護者に向けて、SNS関連のネットトラブル対応、オンラインゲームでの課金トラブルについて、講演会やワークショップなどを開催しています。

子どもがトラブルに巻き込まれる可能性を減らすための活動ということもあり、意欲的な学生が多いです。

セキュリティ通信:
学生にとっても、社会に貢献できる貴重な機会になりそうですね。サイバー教室に参加した保護者や子どもたちの反応はいかがでしたか?

池辺教授:
保護者も子どもたちも、非常に真面目に話を聞いて取り組んでいます。

こちらが丁寧に伝えているのもありますが、大学生が指導しているからかもしれません。

年齢の近いお兄さん、お姉さんが親身になって講義をしてくれるのは、子どもにとっても嬉しいのではないでしょうか。

子どもたちが利用するアプリやゲームに精通していると説得力があるのかについて

セキュリティ通信:
子どもたちが利用するアプリやゲームに精通していると説得力があるのでしょうか?

池辺教授:
私のゼミナールでは、オンラインゲームで毎日遊んでいる学生もいれば、全く触ったことがない学生もいます。

趣味嗜好は個人の自由ですが、子どもにオンラインゲームに関するリスクを伝える場合「ゲームのことは全く分からないお兄さん」よりは「ゲームのことは何でも知っているお兄さん」の言葉がより響くのではないでしょうか。

何がリスクとなり得るのか、リスクをいかに回避すべきなのかは実際にやってみないと分かりません。

ですから、オンラインゲームを全くやったことのない学生には、ボランティア参加前に実際ゲームで遊んでもらうことを奨励しています。

警察庁とタッグを組んだ全国262団体、約8,161人のサイバーボランティアが子どもたちのインターネット空間を守る。

警察庁とタッグを組んだ全国262団体、約8,161人のサイバーボランティアが子どもたちのインターネット空間を守る。

セキュリティ通信:
確かにゲームの面白さもリスクも知り尽くしている大学生からの注意喚起が最も効果的だと思います。このような活動をしているのは神奈川県だけなのでしょうか?

池辺教授:
昨年末(令和2年)時点で、神奈川県では31団体、約800人、全国では262団体、8,161人のサイバー防犯ボランティアが活動しています。

これに対して、防犯パトロールや通学路での子どもの見守りなどの活動を行う防犯ボランティアは46,002団体、約248万人なのでサイバー防犯ボランティアもより盛んになればと考えます。

それでも約8000人の全国のサイバー防犯ボランティアが「自分たちの利用するインターネットの安全は自分たちで守る」というコンセプトのもとに、自主的に活動を行っています。

「サイバーパトロール」はどのように行われているのか

セキュリティ通信:
サイバー防犯ボランティア活動のひとつである「サイバーパトロール」はどのように行われているのですか?

池辺教授:
サイバーパトロールは、インターネット上の違法有害情報を発見した場合に対応機関に向けて情報提供を行うというものです。この窓口としてはIHC(インターネットホットラインセンター)となります。

また、その他の取り組みとしてSNSに特化したサイバーパトロールもあります。SNSの児童の性被害につながる書き込みに対して、各都道府県警察の公式アカウントから注意喚起を行う取り組みが実施されていますので、サイバー防犯ボランティアが警察と連携して情報提供を行うという事例が増えています。

私たちのゼミナールでは、情報収集の効率化を目的とした「違法有害情報対策支援システム」を他の防犯ボランティア団体に向けて提供しています。

全国でどれくらいの注意喚起が行われているのか

システムを導入することで、SNSを利用したことがないという年配のボランティアの方が年間数千件の違法有害情報を提供したという実績もあります。

セキュリティ通信:
SNSを全く利用したことがない方が成果をあげているのはシステムの賜物ではないでしょうか。全国でどれくらいの注意喚起が行われているのですか?

池辺教授:
2018年に愛知県警察で「サイバーパトロール」が開始された際には、メディアに大きく取り上げられ、ツイッターでは「愛知県警」がトレンドになったほどでした。

注意喚起は、2021年11月時点で約16万件、ツイートの削除率は71%、アカウント削除率は約50%となっています。

地域のサイバー防犯ボランティアと連携し、効率的な情報収集と犯罪抑止につなげている

セキュリティ通信:
ボランティアと警察による年間16万件もの注意喚起から犯罪抑止につながったケースも多くあるのではないでしょうか。警察との連携とお伺いしましたが、どのような部署が担当しているのでしょうか?

池辺教授:
一般的には、生活安全部のなかにあるサイバー犯罪捜査課、少年育成課、少年捜査課のいずれかが担当します。

こういった内容の専門の方としては、サイバー犯罪に特化した中途採用もあるようですが、SE歴3年以上などが条件になっていることが多いため、実際にはハードルがかなり高いのではないでしょうか。

そういった背景もあり、地域のサイバー防犯ボランティアと連携し、効率的な情報収集と犯罪抑止につなげています。

コロナ禍の外出自粛で出会い系・売春被害が減少。児童ポルノと違法薬物には最大限の警戒を。

コロナ禍におけるサイバー犯罪に関する変化について

セキュリティ通信:
警察と民間の協力による効果が期待されますね。今回のコロナ禍で、サイバー犯罪に関して変化はありましたか?

池辺教授:
コロナ禍が始まったばかりの頃は、外出自粛などの影響で、インターネットを利用する時間が増加し、被害が拡大するのではないかと懸念されていました。

確かに、ツイートの件数そのものは増えましたが、実際の児童性犯罪件数に関しては、2020年は1,819件と前年から12.6%減少しています。

原因として考えられるのは、「出会い系」などは最終的に会わなければ犯罪が成立しないため、そういった被害が減少した影響かもしれません。

実際に会わなければ犯罪に結びつくことはないのか

また、警察もコロナ禍によって外でパトロールをする機会が減ったために、サイバーパトロールに対して多くの時間が割けるようになったことがこれらの犯罪抑止につながったのではないでしょうか。

セキュリティ通信:
コロナ禍で児童の性被害件数が減少したのは意外でした。実際に会わなければ犯罪に結びつくことはないと考えてよいのでしょうか?

池辺教授:
確かに、援助交際などは最終的には会うことで犯罪が成立しますが、児童ポルノは一度も会わなかったとしても被害を受けます。

子どもの性被害で最も多いのは出会い系・売春ですが、次に多いのが児童ポルノですから、放置していいわけではありません。

子どもに猥褻な画像を要求して弱みを握ることで、さらなる犯罪に発展するケースもあるので、コロナ禍であっても警戒すべきです。

児童ポルノ以外に注意すべき犯罪について

セキュリティ通信:
どのような社会状況であってもサイバー犯罪への警戒は必要なのですね。児童ポルノ以外に注意すべき犯罪はありますか?

池辺教授:
コロナ禍で危険ドラッグやハーブ系などの「違法薬物関連」の違法有害情報は、コロナ禍で3倍程度の増加が確認できます。

これらの違法薬物についての情報は、比較的容易にSNS等で誰もが目にすることが可能です。

当然、発見された場合は違法有害情報として通報されますが、依然として子どもたちの目に見える場所で情報が飛び交っている状態ですから、違法薬物に関しては特に注意を払う必要があるでしょう。

大切なのは子どもが被害に遭わないこと。深刻化する前に行政やNPOに迷わず相談を。

子どもが被害に遭ってしまった場合の対処方法について

セキュリティ通信:
児童ポルノや援助交際、薬物関連など犯罪から子どもを守るために様々なボランティア活動が進められているのですね。子どもが被害に遭ってしまった場合の対処方法について教えてください。

池辺教授:
大切なことは、被害が深刻化する前にNPO法人や行政機関に相談に行くことです。

悩んでいる間に被害が拡大してしまうケースが非常に多いですから、子どもが被害に遭遇しているかもしれないと保護者が認知した時点ですぐに行動を起こしましょう。

警察や都道府県、市町村など多くの窓口が充実していますし、気軽に相談できる体制が整っています。

相談件数も年々増加しているので、子どもの様子に少しでも気になることがあれば恥ずかしがらずに相談することをおすすめします。

子どもがサイバー犯罪に巻き込まれるタイミングや予兆について

セキュリティ通信:
子どもがサイバー犯罪に巻き込まれるタイミングや予兆にはどのようなものがあるのでしょうか?

池辺教授:
家庭環境によって異なりますが、日頃からアカウント管理を徹底し、ログのチェックも行っている場合は比較的容易に気が付くでしょう。

ただ、実際にはそこまで余裕がない保護者が多いと思いますので、各家庭に合わせたルール作りを行うことを奨励しています。

例えば、インターネットを利用する時間と場所を決めているにも関わらず、自分の部屋に持ち込む時間が長くなった場合には、注意深く見守る必要があるでしょう。

もちろん、画面を隠すことが増えたなども予兆のひとつと考えられます。

子どもが被害に遭わないことを最優先に考える

全ての保護者が子どものインターネットの利用状況を完全に把握しているわけではありませんから、犯罪の予兆を見つけても、恥ずかしいと感じる必要はありません。

とにかく子どもが被害に遭わないことを最優先に考えて、保護者のキャパシティを超えた場合には、行政の窓口、サイバー犯罪に詳しい人に相談しましょう。

終わりに

社会全体で子どもたちを守るという姿勢が今後ますます重要になる

key point

・サイバーボランティアの活動は「教育活動」「サイバー空間の浄化活動」「広報啓発活動」の3種類

・ボランティアの登録者数は神奈川県では31団体、約800人、全国では262団体、約8,000人

・2021年11月時点のサイバーパトロールによる注意喚起は約16万件、ツイートの削除率は71%、アカウント削除率は約50%

・サイバー防犯教室では子どもたちが普段利用するアプリやゲームに精通している大人が話をすると説得力がある。

・SNSに起因する事犯の被害児童数は1,819人と前年から12.6%減少する一方で、危険ドラッグやハーブ系などの「違法薬物関連」の違法有害情報は、コロナ禍で3倍程度に増加

・悩んでいる間に被害が拡大してしまうケースが非常に多いため、保護者が認知した時点ですぐに行政やNPOなどに相談することが重要

いかがでしたでしょうか?

国内のインターネット利用者は1億人を超え、子どもから高齢者まで誰もがスマートフォンを所持するのが当たり前の時代になりました。

TwitterやInstagramなどのSNSによる情報収集や自己表現、オンラインゲームやカラオケアプリを通じた出会いなど、新たなコミュニケーションツールは、私たちの生活をより豊かに楽しくしてくれます。

その一方で、子どもたちが利用するサイバー空間には児童ポルノや児童売春、違法薬物など多くの危険が潜んでいることを忘れてはいけません。

加速化するIT技術の変化とそれに伴う子どもへのリスクに保護者や学校が完璧に対応するには限界があります。

警察庁と民間のボランティアが連携した「サイバー防犯ボランティア」など社会全体で子どもたちを守るという姿勢が今後ますます重要になるのではないでしょうか。

intervieweeプロフィール

池辺正典教授

池辺正典

文教大学情報学部情報システム学科教授

インターネットの違法有害情報を収集・分析し、サイバー空間の浄化活動を支援するためのシステムの提供を行うプロジェクトを推進。

近隣の小中学校に向けて警察と連携したサイバー防犯教室開催などの活動が評価され、2019年10月には「安全安心なまちづくり関係功労者」として内閣総理大臣表彰を授与。地方自治体や警察と連携し「SNSに起因する児童ポルノ、児童買春、重要犯罪等」から児童を守る。

経歴:
関西大学大学院総合情報学研究科博士後期課程修了/文教大学情報学部情報システム学科専任講師/同准教授を経て現職

文教大学サイバー防犯ボランティア代表/情報システム学会理事

専門分野:
ウェブ情報学/サービス情報学/子ども学(子ども環境学)

研究キーワード:
Webマイニング/情報システム開発/サイバー防犯ボランティア/違法有害情報対策/行政評価/地域情報化

社会貢献活動:
・東京都 インターネット広告 監修2021/04-2022/03
・茅ヶ崎市地域情報化計画 中間評価報告書 有識者評価担当2018/10-2019/02

TEXT:セキュリティ通信 編集部
PHOTO:iStock

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