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SNSに起因する性犯罪の現状と課題。子どもの身近に潜むリスクを徹底解説。

トピックス 2022.02.23 SNSに起因する性犯罪の現状と課題。子どもの身近に潜むリスクを徹底解説。

セキュリティ通信では、Web・IT業界をリードするスペシャリストの方々にインタビューを行っています。

2回目となる今回は、サイバー犯罪から社会を守るため「AIを用いた防犯システム」の最前線で活動を続ける、文教大学情報学部の池辺正典教授からお話をお伺いしました。

国内のインターネット利用者は1億人を超え、多種多様なサービスや機器が誕生し、生活が格段に向上する一方で、サイバー犯罪の手口が悪質・巧妙化しています。

特に問題視されているのが、SNSを起因とする18歳未満の子どもに対する児童ポルノ、児童買春、略取誘拐などの性被害。

2017年に座間市で発生した死体遺棄事件は、最も凶悪な事件として記憶に新しいのではないでしょうか。この事件で、加害者はTwitterを利用して被害者と接触。9名の若き犠牲者のうち5名が未成年でした。

このような社会的状況を鑑み、インターネットの違法有害情報を収集・分析し、サイバー空間の浄化活動を支援するシステム提供など警察や教育機関と連携した数々のプロジェクトを推進しています。

池辺教授のインタビューは全4回にわたってお送りします。

第2回目となる今回は、子どもを取り巻くサイバー犯罪の現状、犯罪の入り口となるSNSやオンラインゲームとの付き合い方について、ご教授いただきました。

普通の子どもが狙われている。SNSやアプリを駆使した性犯罪の手口とは。

SNSに起因する犯罪における現状について

セキュリティ通信:
TwitterやInstagramなどが原因で、児童が犯罪に巻き込まれるケースが増えているようです。SNSに起因する犯罪における現状について教えてください。

池辺教授:
警察庁が発表した2020年の統計によれば、SNSに起因する事犯の被害児童数は1,819人となっています。

新型コロナウイルスの影響で、2019年の2,082件からは12.6%減少しましたが、児童買春、児童ポルノ、青少年保護育成条例違反が9割程度を占めます。

メディア別の被害件数ではTwitterが35.8%で最大ですが、若者の流行を反映して直近1~2年はInstagramの増加が目立っています。

Twitterにおけるアカウント凍結数

Twitter社は、ポリシーに反するツイートやアカウントに対して、削除や凍結などの対応を厳格に行ってきたこともあり、最近は減少傾向に転じています。

セキュリティ通信:
Twitter社は犯罪を未然に防ぐ対応に注力しているのですね。どれくらいの件数のアカウントが停止されているのでしょうか?

池辺教授:
2020年下半期のTwitterにおけるアカウント凍結数は約100万件で「児童の性的搾取」が46%程度を占めました。

対応件数自体は、ヘイト関連の方が多いのですが、ヘイト関連はツイートの削除としての対応が行われるケースがほとんどです。

一方、児童の性的搾取は常習性があり、ツイートの削除だけではなく、アカウントの凍結まで行われることが多いと考えられます。

SNSを入口として犯罪に発展するケース

セキュリティ通信:
座間市で発生した事件のように加害者がTwitterを利用する場合は、どのように犯罪に至ったのでしょうか?

池辺教授:
Twitterは検索機能が高いメディアの一つで、ターゲットを簡単に見つけ出すことができます。

さらに、全く面識のない相手であっても、DM機能によってコンタクトを取ることが可能です。

DMを通じて親しくなり、相互フォローが完了した状態で鍵をかけてしまえば、その後のやり取りに関しては外部から把握することはできません。

このような手順で、SNSを入口として犯罪に発展するケースがあると考えられます。

オンラインゲームやアプリに潜む犯罪者たち。「ペアレンタルコントロール」を徹底し、身近な大人が守る。

オンラインゲームなどのソーシャル機能にも注意すべきなのか

セキュリティ通信:
全く面識のない相手と子どもが、気軽にコンタクトを取れてしまうのは怖いですね。最近はお絵かきアプリにチャットが搭載されている場合もありますが、オンラインゲームなどのソーシャル機能にも注意すべきなのでしょうか?

池辺教授:
最近は家庭用ゲーム機であっても、無料のオンラインゲームをダウンロードして遊ぶことができることが多くなりました。特にバトルロワイヤル系のゲームは、対象年齢が15歳以上のものが多いですが、保護者による管理が行われていることが少なく、トラブルもよくあると聞きます。

こういった協力プレイを知らない人が行うゲームは、ボイスチャット機能もありますので、全く面識のない大人と簡単に繋がる危険があります。

その他のアプリでもソーシャル機能を持つものは多く、中高生に関しては、コロナ禍でカラオケアプリ等が問題になったようです。

動画の投稿に対して、ユーザーは自由にコメントをつけることができるのですが、中高生の知り合いを増やすことを目的とした大人の利用が目立っています。

オンラインゲームやアプリを通じた子どもへの接触は、性的な犯罪に繋がる可能性が高く、インターネット・ホットラインセンターやセーフラインといった対応機関に寄せられる違法情報や相談は非常に多くなっているのが現状です。

犯罪から子どもを守るためにはどうすれば良いか

セキュリティ通信:
軽い気持ちで始めたオンラインゲームやアプリには、想像を超える危険が潜んでいるのですね。犯罪から子どもを守るためにはどうすれば良いのでしょうか?

池辺教授:
まず、現在の子どもを取り巻くインターネット環境は、有害サイトへのアクセス、高額な利用料金の請求、性的搾取などに巻き込まれるリスクと隣り合わせであることを大人が認識しなければいけません。

その上で、リスクを伴うアプリやWebサイトなどを監視・制限する「ペアレンタルコントロール」を徹底し、身近な大人が、踏み込んで見守る必要があるでしょう。

子どもの年齢にもよりますが、小学校低学年であれば、ゲームのフレンド管理や実況動画を見るためのアカウント管理は大人が徹底して行うことをおすすめします。

最近は、GIGAスクールの影響で、子ども達がアカウント管理に慣れています。大人が想定しないような事態に発展する可能性もあるので、大人のアカウントと紐付けておきましょう。

被害を防ぐためのポイントは「相談できる関係を築くこと」

セキュリティ通信:
子どもを守るために、ゲームやアプリのことは知っていた方が良いのでしょうか?

池辺教授:
子どもが利用しているアプリやゲームを把握するという意味でも、可能であれば、インストールして操作してみると良いでしょう。

最もおすすめしているのは、子ども達と一緒にゲームで遊ぶことです。

実は、私もオンラインゲームのことは全く分からなかったのですが、子どもと一緒にバトルロワイヤル系のゲームを頑張ってやりました。

オンラインゲームでの犯罪はどのようにして巻き込まれるのか

すると、どこの家庭でも見られる現象ですが「お父さん、暇ならクエスト攻略やってくれない?」「ついでにレベル上げもお願いしていい?」など子どもから様々な依頼を受けるようになります。

この段階になると、子どもが隠しごとをすることはありません。

大人がゲームやアプリそのものを理解していなければ、どこが危険で何が悪いのか分からないですし、注意したとしても伝わらないのではないでしょうか。

セキュリティ通信:
ゲームで一緒に遊ぶことで会話も増え、親子関係が改善するかもしれませんね。オンラインゲームのソーシャル機能が犯罪のきっかけになるとお聞きしましたが、どのようにして犯罪に巻き込まれるのでしょうか?

池辺教授:
一般的に子どもは子ども同士で遊びますが、その中に、いつの間にか大人が混じっているというケースがあります。

これは、リアルな世界だけでなくオンラインの世界でも、友達の友達は「知らない大人」ということもあるため、友達から招待されてゲームに参加しようとした時に、なぜかそこに大人がいるという状況が生じてしまいます。

子どもにリスク判断ができない場合には、身近な大人がそばで見守る必要がある

そこで「全く知らない大人がいるからやめよう」という判断ができれば問題ありませんが、ゲームする際に常にそういったことを子どもが意識することが難しいように思われます。

子どもにリスク判断ができない場合には、身近な大人がそばで見守る必要があるでしょう。

セキュリティ通信:
オンラインゲームはソーシャル機能があるからこそ面白いという声を聞きますが、利用する時に注意すべきことがあれば教えてください。

池辺教授:
まず、ソーシャル機能は「ゲーム会社が顧客を確保するため、少しでも長くゲームを利用してもらう戦略のひとつ」であることを大人が認識しなければいけません。

一般的に、インターネットやスマートフォン依存は、機器そのものに対してではなく、SNSなどを通じた他者とのコミュニケーションに依存しているケースが多くあります。

ソーシャル機能を通じたコミュニケーションが子どもの心の拠り所だった場合、単純に通信機器から遠ざけるだけでは問題は解決しないので、そういった事情を踏まえて子どもと向き合う必要があります。

段階的なペアレンタルコントロールと並行したデジタルリテラシー教育で「自分の身は自分で守る」力をつける。

フィルタリング機能は必ず設定しなければいけないかについて

セキュリティ通信:
子どもの犯罪を防止する上で効果が期待されるフィルタリング機能ですが、犯罪被害に遭遇した子ども達の85.5%が、利用していなかったという結果があります。フィルタリング機能は必ず設定しなければいけないのでしょうか?

池辺教授:
原則として18歳未満の青少年がスマートフォンや携帯電話の契約・機種変更をする際に、携帯電話事業者はフィルタリングサービスを提供することが義務づけられています。

ただ、安全性と利便性が天秤にかけられたフレキシブルな利用にされているのが現状ではないでしょうか。

デジタルリテラシーが希薄な小学校低学年であれば、利用時間やアプリの制限を大人が行う必要がありますが、年齢が上がり高校生になると、フィルタリング機能を嫌がるお子さんも増えてきます。

子どもが自分でフィルタリングを外すことは可能なのかについて

セキュリティ通信:
子どもが自分でフィルタリングを外すことは可能なのでしょうか?

池辺教授:
フィルタリングは通信回線で行うものとソフトウェアで行うものがあります。前者は安定性が高いですがWi-Fiの利用で簡単に回避が可能です。後者は設定次第では厳密な管理が可能ですが制限するアプリを理解する必要がありますし、おまかせ設定のような機能もありますが、その場合は非常に強い機能制限で不便となるか逃げ道が残っている状態になっていることが多いように思われます。

また、ソフトウェアによる管理である以上は、色々な方法でアプリを終了することも不可能ではありませんので、その場合は当然ながら機能しません。

このように、様々な逃げ道があるため、フィルタリングは万全ではないことを理解する必要があります。

フィルタリングに頼るのではなく、的確な判断ができるように導いてあげることが大切

セキュリティ通信:
最近は企業の間でも、ツールにではなく個々のセキュリティ意識などマインドによってサイバー犯罪を抑制しようという動きがあります。子どももフィルタリングだけに頼るのではなく、リテラシーに関する教育も必要なのでしょうか?

池辺教授:
小学校低学年のデジタルリテラシーが希薄な段階では、大人が管理する必要がありますが、高学年にもなれば「どんなサイトが危険なのか」という判断は徐々にできるようになるものです。

全てをフィルタリングに頼るのではなく、デジタルリテラシー教育と並行することで、的確な判断ができるように導いてあげることが大切です。

このため、課外授業として、ここ数年では「サイバー防犯教室」として子どもたちに向けた講義を行なってきました。

子ども達のデジタルリテラシー向上に関する教育をいかに進めていくのか検討する時期がきているのではないでしょうか。

周囲の大人が意識すべきポイント

セキュリティ通信:
今後、子ども達を取り巻くインターネット環境のリスクはさらに大きくなることが予想されます。周囲の大人が意識すべきポイントなどあれば教えてください。

池辺教授:
あらゆる情報端末の利用には常にリスクが伴うものです。

しかし、危険だからといって取り上げてしまえば、問題が解決するわけではありません。

私の教える学生達のなかでも、情報機器に触れる時期によって能力の差が大きく開いてしまうケースがみられます。

情報を得る自由とリスクを考慮した段階的なペアレンタルコントロールと並行したデジタルリテラシー教育を行うことが求められるのではないでしょうか。

終わりに

子ども達との磐石な信頼関係を構築することが、悪質な性犯罪の抑止につながる

key point

・SNSに起因する児童の被害件数は年間約2,000件で推移。強制性交等、略取誘拐、強制わいせつなどの重要犯罪が増加傾向にある。

・TwitterやInstagramなどSNSのDM機能を利用して子ども達に接近し、犯罪に発展するケースが頻発。

・リスクを伴うアプリやWebサイトなどを監視・制限する「ペアレンタルコントロール」を徹底し、身近な大人が踏み込んで見守ることが重要。

・子ども達が利用するアプリやオンラインゲームを大人も一緒に体験することが説得力のある注意喚起や信頼関係の構築につながる。

・ソーシャル機能は「ゲーム会社が顧客を確保する戦略」であるという視点を大人が持ち、子ども達のコミュニケーション依存と向き合う。

・全てをフィルタリングに頼るのではなく、情報取得の自由を子どもに担保しながら「デジタルリテラシー教育と並行し、的確な判断ができるように導いてあげること」が重要。

いかがでしたでしょうか?

子ども達の日常に浸透しているTwitterやInstagramなどのSNS、オンラインゲームには、児童ポルノや児童買春など性的搾取につながるリスクが潜んでいます。

多種多様なサービスや機器が日々生まれる変化の大きな現代では、子ども達だけでなく、見守る側の大人もデジタルリテラシーやセキュリティ意識を常にアップデートすることが求められます。

段階的なペアレンタルコントロールと並行して、子ども達が利用するアプリやゲームに対する理解を深め、子ども達との磐石な信頼関係を構築することが、悪質な性犯罪の抑止につながるのではないでしょうか。

intervieweeプロフィール

池辺正典教授

池辺正典

文教大学情報学部情報システム学科教授

インターネットの違法有害情報を収集・分析し、サイバー空間の浄化活動を支援するためのシステムの提供を行うプロジェクトを推進。

近隣の小中学校に向けて警察と連携したサイバー防犯教室開催などの活動が評価され、2019年10月には「安全安心なまちづくり関係功労者」として内閣総理大臣表彰を授与。地方自治体や警察と連携し「SNSに起因する児童ポルノ、児童買春、重要犯罪等」から児童を守る。

経歴:
関西大学大学院総合情報学研究科博士後期課程修了/文教大学情報学部情報システム学科専任講師/同准教授を経て現職

文教大学サイバー防犯ボランティア代表/情報システム学会理事

専門分野:
ウェブ情報学/サービス情報学/子ども学(子ども環境学)

研究キーワード:
Webマイニング/情報システム開発/サイバー防犯ボランティア/違法有害情報対策/行政評価/地域情報化

社会貢献活動:
・東京都 インターネット広告 監修2021/04-2022/03
・茅ヶ崎市地域情報化計画 中間評価報告書 有識者評価担当2018/10-2019/02

TEXT:セキュリティ通信 編集部
PHOTO:iStock

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