トピックス 2022.02.25 京王線刺傷事件、小田急線刺傷事件、密室の電車内でどう身を守るべきか?
京王線刺傷事件、小田急線刺傷事件と、電車の中という密室で無差別刺傷事件が発生しています。
鉄道各社も安全対策を施していますが、生活とは切り離せない電車の中で自身の身を守るために、どういった対策をとれば良いのでしょうか?
この記事では、電車の中でのセキュリティ意識について解説します。
相次ぐ電車内での無差別刺傷事件、その手口と詳細とは
2021年9月以降、僅か2ヶ月の間に電車内での「無差別傷害事件」が立て続けに発生し、大きな話題になりました。これらの事件の詳細についてご紹介します。
京王線刺傷事件
2021年10月31日20時頃、東京都調布市を走行中の京王線上り特急列車内で、男が刃物で他の乗客を切りつけた上、液体を撒いて放火し、18人が重軽傷を負う事件が発生。
殺人未遂容疑で警視庁に現行犯逮捕された男は、調布駅を発車した直後、72歳の乗客の男性の目に殺虫剤を噴きかけ、バッグに隠し持っていた刃渡り約30センチの刃物で刺しました。
その後、所持していた複数の2Lペットボトルに入れたライター用オイルを撒いて着火し、殺虫剤スプレーにも引火したため車内で火災が発生。
電車は国領駅で緊急停車しましたが、車両のドアとホームドアが開かなかったため、乗客が窓を開け、ホームドアを乗り越えて避難する事態となりました。
容疑者は、警察の調べに対し「小田急線の刺傷事件を参考にした。小田急線の事件ではサラダ油で火が着かなかったので、ライターオイルを使った」などと供述。
この事件では、乗客によって車内非常通報装置を通じて通報が行われましたが、乗客に応答を求めても聞き取れず、状況を把握することができませんでした。
小田急線刺傷事件
「京王線刺傷事件」の容疑者が参考にした「小田急線刺傷事件」は、8月6日に小田急線電車内で発生。20歳の女子大生が重傷を負ったほか、合わせて10人が負傷しました。
逮捕された男は、逆手に持った牛刀で20歳の女子大生の胸を2回刺し、女性が逃げると追いかけて背中を刺すなどし、牛刀の柄が折れ使用できなくなるまで切りつけました。さらに、サラダ油を床に撒いてライターで着火しようと試みましたが失敗。
緊急停車後にドアコックを使い現場から逃走しましたが、杉並区高井戸西のコンビニエンスストアに現れ、殺人未遂容疑で逮捕。犯人が犯行現場を快速急行の電車内としたのは、停車駅が少なく犯行しやすいためと供述しています。
最新技術を駆使して犯罪を未然に防ぐ。各鉄道会社及びメーカーの取組み
小田急電鉄で発生した無差別傷害事件を受け、赤羽国土交通大臣は9月に開かれた定例会見で今後の対策を発表。
警備の強化として、従来行なってきた駅係員や警備員による駅構内の巡回及び車内の警戒添乗の一層の徹底、車内・駅構内における防犯カメラの増備などの実施を挙げています。
さらに、AIなど最新技術を活用した不審者、不審物の検知機能強化や非常通報装置の周知改善、防護装備品などの整備も行なっていくことを明らかにしました。
JRや私鉄各社、メーカーによる最新技術を活用した車内犯罪防止の最新技術をご紹介します。
JR東日本による顔認証システム
顔認証システムは、顔の特徴を数値化したデータベースを用意し、カメラに写った不特定多数の人物と自動的に照合するシステム。
JR東日本では、2021年7月以降、東京五輪・パラリンピックのテロ対策として、過去に同社管内で重大犯罪を起こした出所者や仮出所者、指名手配者、駅構内にいる不審者らを検知対象にする予定でしたが、差別であるという批判を受けて、出所者の監視は対象外とされています。
顔認証システム導入に対しては、欧州連合(EU)や米国で法的規制や禁止する動きが見られるため、日本でも導入のための早急な法整備が求められます。
東急電車のLED蛍光灯一体型の防犯カメラ「IoTube」
東急電鉄は、車両内のセキュリティ向上を目的として、電車内にLED蛍光灯一体型の防犯カメラ「IoTube」(アイ・オー・チューブ)の導入を進めてきました。2020年7月末には、東急こどもの国線を除く全車両1,247両へ導入が完了。
従来の車内防犯カメラは通信機能を持たないため、車両のカメラから記録媒体を抜き取って事務所などに持ち帰り、専用パソコンで確認する必要がありました。
しかし、「IoTube」はソフトバンクの4Gデータ通信に対応。遠隔地からでもカメラで撮影した映像をほぼリアルタイムに確認することが可能になり、車両内トラブル発生時などに迅速な対応が可能となります。
鉄道車両への4Gデータ通信機能を備えたLED蛍光灯一体型の防犯カメラ導入は、鉄道業界初。
今後、多様なセンサーを搭載し、そのデータを活用することで、AIやIoTを融合した次世代型ネットワークカメラとして、車内温度の可視化や不審物の自動検出などが期待されます。
犯罪を未然に防ぐNECのAIシステム
人工知能AIを搭載した防犯カメラによって犯罪を事前に察知し防ぐシステム開発も様々なメーカーで進められています。
今までの「監視カメラ」は犯罪の証拠を残すことが主な目的でしたが、NECのAIシステムは不審者の行動パターンをAIが学習し、監視員などに知らせることで、犯罪を未然に防ぐことに主眼が置かれています。
顔認証技術を活用し、監視リストに登録済みの人物が現れたら即座に警備員などに通知。犯罪歴のある人だけでなく、何度も現場を訪れたり、長時間にわたって同じ場所を歩き回る不審者も対象として防犯を強化しています。
火災を発見、通報する「アースアイズ」のAI搭載カメラ
AI搭載カメラの開発を行う「アースアイズ」は、公共の場や人のいない場所で発生する火災を発見し、通知するシステムを発表。
火の大きさや方向、煙などから火災を初期段階で察知。将来的には、万引きを発見する技術を応用し、放火につながる不審行動を検出するAIカメラの開発も予定しています。
無差別犯罪から身を守るために。覚えておきたい6つの防犯対策
現在、鉄道各社は、最新技術の導入や事件を想定した訓練など、セキュリティ強化のため様々な対策を講じています。
しかし、電車内という密室で犯行が行われた場合、路線の関係上、緊急停止が難しいことから、万が一、事件現場に居合わせた際には、個々のセキュリティ対策が命を守る上で非常に重要になります。
電車を利用する際に意識すべきセキュリティ対策についてまとめました。
1.乗車する電車の「安全設備案内図」を確認
列車内には各種安全設備が設置されており、案内図が一部の車両に掲示されています。どこに何があるのか、頻繁に利用する電車の案内図を確認し、いざという時に備えましょう。
2.「車内非常通報ボタン」の位置を確認
鉄道事業者によって設置数や設置場所は異なりますが、電車には「車内非常通報装置(車内非常通報ボタン)」が設置されています。
「車内非常通報装置」は、乗務員と通話が可能なタイプと通話はできず乗務員室に通報されるタイプがあります。一般的には、連結部付近に設置されているので乗車した際には必ず確認しましょう。
国交省のガイドラインでは、「列車内で不審者や不審物を発見した場合、トラブルがあった場合など、緊急で乗務員等に知らせる必要があるときは、ためらわずに車内非常通報装置を使用しましょう」と呼び掛けてます。
3.通報時には冷静な状況説明を心がける
万が一、自分が「車内非常通報装置」を使用して通報することになった場合にも、いくつかの注意点があります。
まず、最も重要なのは自分の身の安全を優先すること。その上で、「真ん中の車両で火災が発生しています」「端の方の車両で刃物を持った人がいます」など、どこで何が起きているかを冷静に伝えましょう。
最新の車両では、何号車で非常ボタンが作動したのかが乗務員室から把握できる場合もあるので「火災です」「怪我をしています」など最低限何が起きているかだけでも正確に伝えることが重要です。
ただし「電車内の非常通報装置」が押されても、トンネルや橋の上など避難が困難な場合もあるため、電車は必ずしもすぐに緊急停車するわけではありません。
通報後すぐに電車が停止しなくても、通報が無視されたとパニックに陥ることなく冷静に対応しましょう。
4.「非常用ドアコック」の使用は慎重に
「非常用ドアコック」とは、車両のドアを手動で開ける装置。火災発生時を想定してドアや非常通報装置付近に設置されています。
手動でドアの開閉が可能なドアコックは、命の危険がある場合に重要な避難手段となりますが、使用方法や脱出には十分な注意が必要。
線路内は高電圧の設備が多く危険であることに加えて、脱出時には転落の可能性があり、さらには反対方向から走ってくる列車に轢かれてしまう危険性もあります。
状況によりますが、基本的には車内アナウンスなど乗務員の指示に従ってドアコックを操作することが望ましいでしょう。
5.列車内には「消火設備」を確認する
走行中の電車内で火災が発生したときなどに備えて、車内には消火器が設置してあります。乗車した際には、どこに消火設備があるのかを確認しておきましょう。
6.ホームドアにも「非常用開放ボタン」を開ける
ホームドアなどに挟まれたり、ホームドアと車両の間に取り残されたりしたときのために、ホームドアにも「非常用開放ボタン」が設置されています。
ガイドラインでは「ためらわずに非常開放ボタンを押し、ホームドア等を手で開けて退避しましょう」とされているので、緊急時には落ち着いてホームドアの「非常用解放ボタン」を押して、より安全な場所へ避難しましょう。
終わりに
2021年9月以降、僅か2ヶ月の間に京王線刺傷事件、小田急線刺傷事件と2つの無差別刺傷事件が発生しました。
通勤や通学など誰もが利用する移動手段である電車内での事件に、恐怖を感じる方も多いのではないでしょうか。
国土交通大臣による駅係員や警備員による駅構内の巡回及び車内の警戒添乗の徹底、車内・駅構内における防犯カメラの増備などの実施を呼びかけています。
鉄道のセキュリティに関しては、東京オリンピック開催に備えて、鉄道各社、メーカーによって、顔認証システムやAIを搭載し、不審者や放火を事前に察知する防犯カメラなど最新の技術を搭載した防犯システムが開発され導入が進められてきました。
しかし、どれほどセキュリティ技術が進化しても、不特定多数の人が乗り込む密室という電車内において完全に犯行を防ぐことは困難なので、電車を利用するそれぞれがセキュリティ意識を高めることが重要です。
具体的には、乗車した際には「安全設備案内」「車内非常通報装置」「火災報知器」の場所を確認すること。万が一、事件に遭遇した場合には、身の安全を優先した上で躊躇せず「車内非常通報装置」を押して車内の状況を的確に伝えること。さらに、どれほど緊迫していたとしても「ドアコック」の利用に関しては車内アナウンスの指示を待つ方が良いでしょう。
日頃から電車内のセキュリティに関する設備を確認し、避難の方法をイメージしておくことが、身を守ることにつながるでしょう。
【参考サイト】
国土交通省鉄道局 鉄道の安全利用に関する手引き
https://www.mlit.go.jp/common/000128837.pdf
鉄道セキュリティ向上の取組みについて
https://www.jreast.co.jp/press/2018/20190304.pdf
小田急での無差別傷害事件を受け鉄道のセキュリティ向上へ、防犯カメラの顔認証システムへの見解も
https://scan.netsecurity.ne.jp/article/2021/09/28/46350.html
TEXT:セキュリティ通信 編集部
PHOTO:iStock
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