トピックス 2020.08.24 スーパーシティ法案の成立で日本の社会はどう変わる?
スマートシティとは、都市が抱える様々な問題に対して、ICT等の新技術を活用したマネジメント(計画・整備・管理・運営)が行われ、全体の最適化が図られる持続可能な都市やエリアのことです。
IoT、AI、ビッグデータなどの技術を利用して、複数分野にまたがっての課題解決や最適化を目指す都市作りであるスマートシティ。
2011年の東日本大震災以来、災害に強い街づくりという観点で取り組まれ始めているものの、欧米諸国や中国などの先進的な取り組みや実験に日本はまだ追い付けていない状況です。
そんな中、2020年5月にスーパーシティ法案と呼ばれる国家戦略特区法の改正案が可決しました。
スーパーシティ法案とはどのようなもので、日本はどのように変わっていくのか。
今回の記事ではスーパーシティ法案の概要や世界のスマートシティ事例についてご紹介いたします。
スーパーシティ法案ってどんな内容?
国家戦略特区制度を活用しつつ、住民と競争力のある事業者が協力して、世界最先端の日本型スーパーシティを実現しようというのがスーパーシティ構想です。
日本国内ではスマートシティや近未来技術実証特区などの取組はこれまでにもありましたが、エネルギー・交通などの個別の分野の最先端技術の実証などにとどまっていました。
スーパーシティ構想はそこからさらに踏み込んで「丸ごと未来都市を作る 」ことを目指すものです。
その取り組みについては、下記のように定義づけられています。
● 決済の完全キャッシュレス化、行政手続のワンスオンリー化、遠隔教育や遠隔医療、自動走行の域内フル活用など、幅広く生活全般をカバーする取り組みであること
● 一時的な実証実験ではなくて、2030年頃に実現されうる「ありたい未来」の先行実現に向けて暮らしと社会に実装する取り組みであること
● 供給者や技術者目線ではなくて、住民の目線でより良い暮らしの実現を図るものであること
スーパーシティ実現のために、遠隔教育、遠隔医療、電子通貨システムなどで先進的なサービスを実現しようとすると、どうしても各分野の規制改革を同時かつ一体的に進めなければなりません。
スーパーシティ法案は、この構想が実現可能な状況を作るために規制改革を行う法案です。
世界の国のスマートシティ事例
日本のスマートシティへの取り組みは世界に遅れているといわれていますが、それでは世界の国々でのスマートシティ導入状況はどのようになっているのでしょうか?
ここでは3つの国の3つの都市を例に、各都市の具体例を取り上げたいと思います。
IoTフルスコープ型スマートシティ(スペイン・バルセロナ)
バルセロナでは知識集約型の新産業とイノベーションを創出するため、ICTの基盤としてのWifi網の整備を行っています。
その利用目的としては「スマートパーキング」による都市の渋滞緩和や街路灯と連動した見守りサービス、ゴミの自動収集サービスなどが検証されてるようです。
セントラルシステム交通監視型スマートシティ(中国・杭州)
アリババは地元の杭州市と合同でシティブレイン構想を2016年に掲げると、スマートシティのAIプラットフォーム開発を推進してきました。
シティブレインとは都市についてのビッグデータを収集し、AIを利用して交通やエネルギーなどを効率的に管理するシステムです。
具体的な取り組みとしては、監視カメラや信号機のデータを利用した交通渋滞の緩和や緊急車両が通過する時の信号コントロール、ドローンを使った輸血用血液の輸送など幅広いサービスを展開しています。
世界一の省エネ都市を目指す「ASCプログラム」(オランダ・アムステルダム)
アムステルダムでは、継続可能(Sustainable)をキーワードに市民のエネルギー消費行動を変化させる取り組みを行っています。
1. 持続可能な生活(Sustainable Living)
スマートメーターの導入による、消費電力の可視化(見える化)と市民の環境意識・電力利用行動(ライフスタイル)の変革促進
2. 持続可能な労働(Sustainable Working)
照明・冷暖房・セキュリティ機能を高めたスマートビルディングへの転換およびエネルギー使用量の抑制
3. 持続可能な運輸(Sustainable Transport)
港湾・船舶間の相互電力充電とEV車の普及、充電ポイントの拡充
4. 持続可能な公共スペース(Sustainable Public Space)
ゴミ収集におけるEV車の利用、太陽光発電によるゴミ圧縮機の導入
スマートシティを実現するための課題
スマートシティのもたらす恩恵は大きいですが、これからスマートシティ化、スーパーシティ化を行なっていくにあたって解決しなければならない課題も当然存在します。
そういった課題について、今回の記事ではコスト、プライバシー、セキュリティの3つの観点から解説していきたいと思います。
コストの問題
スマートシティやスーパーシティの実現は先進的な取り組みのため、実際の事例が少なく、コストダウンがまだ実現されていません。
現在は政府や官公庁が主導しながら進んでいますが、必要な予算の確保を行うとともに協力する民間組織に対してコストメリットが生まれるよう取り組まなければプロジェクトの継続は難しくなってしまいます。
プライバシーの問題
スマートシティを実現するのには、市民や街の人たちの行動などから様々なデータを取得する必要があります。
例えば混雑状況を予測するには、スマートフォンの接続情報から特定の地域にどれだけ人がいるかを算出してビッグデータを作成し、AIなどでそれを解析しなければいけません。
このデータ利用に対してプライバシーの侵害だと感じる人もおり、過去にはこの点が原因となって計画がとん挫した事例もあるためデータの保護や転用・流用を防止する仕組みづくりが欠かせません。
セキュリティの問題
スマートシティに取り組む上ではデータの収集が必須ですが、その中でもIoT機器はスマートシティのデータ収集に相性が良いものです。
都市の各地にIoT機器を設置し、ネットワーク接続を行うことで、リアルタイムで様々な情報を得ることができますが、こうしたIoT機器の利用には常にセキュリティリスクが存在しています。
また、集積したデータの中には個人情報なども含む可能性があり、サイバー犯罪者から狙われる可能性も十分考えられるため、多面的なセキュリティ対策が必要です。
終わりに
かつては夢のようだった未来都市の実現も、今ではそう遠くない未来のこととして感じられるようになってきました。
自動運転や渋滞のない道路、エネルギーロスの削減など、スマートシティのもたらす公共的な利益は非常に大きなものです。
IoT機器による自動的なデータ収集やAIによるビッグデータの分析など、1つ1つの技術は開発が進んでいますので、これからはそれらを総合的に利用していくことでより多くの人にとって有益な仕組みが作られることを願います。
【関連リンク】
・都市交通調査・都市計画調査 スマートシティに関する取り組み(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/toshi/tosiko/toshi_tosiko_tk_000040.html
・国家戦略特区 スーパーシティ解説(内閣府国家戦略特区)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitycontents.html
・国家戦略特区 スーパーシティ構想とは(内閣府国家戦略特区)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html
・スマートシティのセキュリティについて(総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000671002.pdf
TEXT:セキュリティ通信 編集部
PHOTO:iStock
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