トピックス 2020.05.17 VRがもたらす新しい価値とセキュリティリスク
バーチャルリアリティ(VR)はゲームやエンターテインメントの分野を中心に近年普及が進んでいます。
ソニーが提供する「PlayStation VR」の累計販売台数は2019年末の年末時点で500万台を超えました。2019年の5月にはフェイスブックによる一体型VRヘッドセット「Oculus Quest(オキュラスクエスト)」が発売されてこちらも大きな話題を集めています。
ゲーム以外の分野でも製造業、販売業、医療分野など幅広くその将来性が見込まれている技術です。
しかしながら、VRが普及するにつれてVRを利用することによるリスクについても聞こえてくるようになっています。
VR技術の持つ可能性とそのリスクについて理解し、利用する上での注意事項についても抑えておきましょう。
VRを使ったことはありますか? そもそもVRとは?
VRとは、実際のものではないが本物と同様の環境をユーザの五感などへの刺激で実現する技術です。
代表的ハードウェアとしては、頭に装着するVRゴーグルという機器があり、ゴーグルを覗くことにより、宇宙空間や空中などのバーチャルな環境を体験することができます。
ちなみに、VRは日本語訳では「仮想現実」と訳されることが多いのですが、これは誤解を与えかねない表現でもあるようです。
日本バーチャルリアリティー学会の唱える定義では、VRとは「見かけや形は原物そのものではないが、本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」という説明がされています。
それでは、VRが実用化されている例としてを実際にVRが使われているサービス事例を見ていきましょう。
ゲームへのVR利用
VRは視覚的なインタフェースと没入感がゲームとの親和性が高いといわれており、実際に商業的な普及はゲームの分野から始まりました。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントの開発した「PlayStation VR」は累計500万台の販売実績があり、2020年の4月時点でオフィシャルサイトで確認できる対応ソフトウェアは200件以上にのぼります。
研修へのVR利用
VRは現実と近い状況を再現しつつも失敗しても問題のない環境を作れることから、各種の研修用のコンテンツにも利用されています。
流通販売業での販売の研修、医療現場での手術の練習、建築現場での危険を伴う作業の研修、避難訓練の体験などのコンテンツが作られてきています。
賃貸業界や旅行業界でのVR利用
VR技術を利用することにより、まるでその場に行ったかのように別の場所を体験することができます。不動産業での建物の内見や旅行を共有するサービスなどが実用化されています。
旅行業界ではVRで旅行に同席したり、VRを使ってホテルの部屋を選びができるサービスが提供され始めている他に、世界中をWEB画面上から散策できるグーグルの「ストリートビュー」にもVR機能が追加されました。
いずれの利用でも、まるでその場にいるような体験をすることができ、高い没入感を味わえるのがVRの大きな特徴といえます。
VR利用に潜むセキュリティリスク
VR技術がとても有用で幅広く利用可能な技術であることは想像することができますが、そこにはリスクも潜んでいます。
すでにサイバーセキュリティのカンファレンスにおいては、研究者がVRをハッキングするデモンストレーションを行うなど、そのセキュリティリスクへの対処に警鐘がならされています。
また、VRに対しては、下記のような攻撃が想定されています。
● 個人情報の悪用:VRに接続しているユーザの個人情報を略取しサイバー犯罪に利用されてしまう危険性
● 個人体験の傍受:VRでの体験を傍受し個人の体験を他人にのぞき見られてしまう危険性
● アバターの悪用:VRで利用しているアバターを取得することで、なりすましに利用されてしまう危険性(VRコンテンツを利用したサイバー犯罪の可能性も示唆されていて、VRコンテンツの作成者からも狙われてしまうことも理論上は想定されます)
● バーチャル世界での反社会的行動:VRコンテンツ上での脅迫や現実上での身体的脅迫行為など、反社会的行為に利用されてしまう危険性
● 洗脳/詐欺:本当のことのように感じられるVRを利用し、誤った情報を利用者にもたらすことで洗脳や詐欺行為が行われる危険性
● 不快な体験の強要(脳への攻撃):生理的に嫌悪感を与えるコンテンツをVRで体験させることにより利用者を一斉に嘔吐させるなどすることができてしまう危険性
● なりすまし:VR上で他人との接触を行う場合、相手の素性は確認しずらく、なりすましが行われる危険性
● 記憶の混乱:現実世界でのできごととリンクしながらも事実と違う情報を利用者にインプットすることで実体験とVR上での記憶が混在し混乱を起こしてしまう危険性
安全にVRを利用するためには
ヘッドマウントディスプレイが複数の会社から販売を開始となったのは2016年のことで、VR元年と呼ばれましたが、2020年の現在に至るまで実用レベルでの利用はまだまだ始まったばかりという状況です。
VRの発想自体は古くからあるものの、その技術はまだ完全に確立しきってはおらず、研究段階であることも少なくありません。
例えば、多くのVR機器やコンテンツでは利用者の年齢に制限が加えられていますが、これは未成年など若年者がVRを長時間利用した場合のリスクが測り切れていないための制限です。
VRにおけるセキュリティについても同様に、その安全性は確保できていません。
VRは没入しやすいという特徴を持っていますが、没入し過ぎてしまうと問題が発生しやすくなるともいえるので、慎重にサービスの開発者や運営者の情報を注視して利用する必要があるでしょう。
終わりに
VRのもたらすリスクは大きく、その全容はいまだ見えていないのかもしれませんが、その分の恩恵も大きく、有益なものであるという研究者、開発者も多いです。
また、実世界の空間にバーチャルな視覚情報を追加して表示することによって目の前の世界を仮想的に拡張するAR(拡張現実)や立体映像の投影を行うMR(複合現実)などと併せて、今後の成長が見込まれる技術であることは間違いないでしょう。
今のVRを取り巻く状況は、実用化に向けて知見を重ね、安心安全に利用するための環境を整備しているステージ段階だと言えるのかもしれません。
【関連リンク】
・「プレイステーション ネットワーク」の月間アクティブユーザー数1億300万、「プレイステーション 4」(PS4®)世界累計実売台数1億600万台を突破
(Sony Interactive Entertainment)
https://www.sie.com/corporate/release/2020/200107.html
・Oculus Quest(Facebook Technologies, LLC)
https://www.oculus.com/quest/?locale=ja_JP
・バーチャルリアリティーとは(日本バーチャルリアリティ学会)https://vrsj.org/about/virtualreality/
・ANA VIRTUAL TRIP(ANA)
https://www.ana.co.jp/ja/jp/travel/vr/anavirtualtrip/
・VRシミュレータ(名古屋大学シミュレーションセンター)
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/edu/nucsc/simulator/index.html
・VRへのハッキングに研究者が成功(SOPHOS)
https://nakedsecurity.sophos.com/ja/2019/07/08/researchers-hack-vr-worlds/
TEXT:セキュリティ通信 編集部
PHOTO:iStock