トピックス 2019.04.23 未知の攻撃にも対応できる？！AIを活用したセキュリティ対策の最前線

AIの持つ大きな特徴には「人間が指示をしなくても自分で状況を判断してその場に応じた対応を行っていく」といったものがあり、コンピュータウイルスなどの攻撃からパソコンを守るサイバーセキュリティの分野でもAIの活用が期待されています。

こちらの記事では、サイバーセキュリティにおけるAIのトレンドとその可能性について見ていきましょう。

既存のセキュリティソフトとAIによるセキュリティシステムの大きな違いは、過去に確認されていない未知のウイルスに対応できるというところにあります。

一般的なセキュリティソフトがウイルスを検出する方法は、過去に発生しているウイルスの特徴を記録したパターンファイルとパソコンの中のデータを比較して、一致したものをウイルスとして検知する「パターンマッチング」と呼ばれる方法が一般的です。

しかし、近年では毎日とてつもない数の新種のウイルスが登場する一方で、それらに対応するパターンファイルの更新が追いつかなくなってきています。ドイツのセキュリティ評価機関であるAV-TESTによれば、1日に発見される新しいウイルスの数は35万件にものぼるのだそうです。

こうした現状を受けて、AIを使ったセキュリティ技術が注目されていて、AIによるリアルタイムでのシステム異常の検知や、不具合の原因究明、ウイルスの駆除などが期待されています。

AIを使ったセキュリティシステムについては、イギリスのダークトレース社がAIを使った従来とは全く異なる視点のセキュリティシステムを提供しています。

従来までのセキュリティ対策は、フィルタリングをかけたり、ウイルスによる攻撃を防御したりという「システム内へのウイルスの侵入をどうやって防ぐか」という観点から行われていました。

しかし、ダークトレース社は「ウイルスの侵入を完全に阻止することは不可能だ」という前提に立っています。その上で、人間の免疫が体内のウイルスを攻撃して体の状態を一定に保とうとする特性に着目して、システムの内部で起こった異常をAIで検知すると正常な状態に戻すために自動でウイルスへの対応を行う仕組みを作り上げたのです。

ダークトレース社の発明したこのセキュリティシステムは、日本でも楽天証券や大手都市銀行といった金融系の企業をはじめとして利用が進んでいます。

AIを使ったセキュリティ対策が進む一方で、攻撃を行う側もまたAIの活用を進めています。

2017年、インドのコールセンターで何者かが大量の問い合わせの電話をかけてくる事件が発生しました。電話による問い合わせは数時間止まることなく続き、対応をするオペレータたちも異変を感じていたようです。

後ほど行われた調査の結果によると、なんとこの電話による攻撃は音声の合成・認識能力を持ったAIによって行われていたという事実が判明しました。

AIによる大規模な攻撃というのは現在では確認されていませんが、今後はAIを使ったサイバー攻撃が行われていくだろうと予測されています。

新しく登場したウイルスへの対策を行うと、攻撃する側はまた新しいウイルスを作ってセキュリティの穴をつくといったイタチごっこは、AIを使った新たなフェーズへ移ろうとしています。

しかし、万能のように思われるAIもまだまだ発展途上の技術であることを私たちは頭に入れておかなければいけません。

より高いセキュリティを実現するためには、AIにすべてを頼るのではなく、私たち一人ひとりがセキュリティ意識を高めていくことが大切です。

【関連リンク】
・「AI（人工知能）を活用した未知のサイバー攻撃対策」（NEC技報 Vol.70 No.2 『ビジネスの安全・安心を支えるサイバーセキュリティ特集〜Futureproof Security 安心の先へ。〜』）
https://jpn.nec.com/techrep/journal/g17/n02/170215.html
・Security Report 2016/2017（AV-TEST）
https://www.av-test.org/fileadmin/pdf/security_report/AV-TEST_Security_Report_2016-2017.pdf
・エンタープライズ・イミューンシステム（ダークトレース）
https://www.darktrace.com/ja/テクノロジー/
・コールセンターに大量の問い合わせ電話――かけてきた相手はAIだった？（ASCⅡ×TECH）
https://ascii.jp/elem/000/001/590/1590992/

TEXT：セキュリティ通信 編集部
PHOTO：iStock